過敏性腸症候群
過敏性腸症候群とは
IBSは、大腸に炎症や潰瘍などの器質的な異常がないにもかかわらず、腹痛や便通異常(下痢や便秘)が慢性的に続く疾患です。ストレスや疲労、食生活などが原因で腸の機能が過敏になり、症状が現れると考えられています。
IBSの主な特徴
機能性疾患:
大腸の構造自体には異常が見られませんが、機能に異常が生じています。
慢性的な症状:
腹痛や便通異常が、長期間にわたって繰り返されます。
多様な症状:
症状の程度や現れ方は、人によって大きく異なります。
原因
主な原因と考えられている要因
1,腸の運動機能異常
正常な腸は、ぜん動運動という動きで内容物を移動させます。IBSでは、このぜん動運動が過剰になったり、逆に低下したりすることがあります。
ぜん動運動が過剰になると、下痢や腹痛が起こりやすくなります。逆に、ぜん動運動が低下すると、便秘や腹部膨満感が起こりやすくなります。
2,内臓知覚過敏
腸の知覚神経が過敏になり、通常では感じない程度の刺激でも痛みとして感じてしまう状態です。
これにより、わずかな腸の動きやガスの刺激でも、腹痛や不快感を感じやすくなります。
3,心理的要因
ストレス、不安、抑うつなどの心理的な要因は、腸の機能に大きな影響を与えます。
脳と腸は密接に連携しており、心理的なストレスは腸の運動や知覚に影響を与えることがあります。
4,腸内細菌叢の乱れ
腸内には、数百種類もの腸内細菌が生息しており、そのバランスが健康に大きく影響します。
IBS患者では、腸内細菌のバランスが崩れていることが多く、これが腸の機能異常や炎症を引き起こす可能性があります。
5,消化管の炎症や感染
過去の感染性腸炎などがきっかけで、IBSを発症することがあります。
感染によって腸の粘膜が過敏になり、その後の腸の機能異常につながることがあります。
6,食事
特定の食品がIBSの症状を引き起こすことがあります。
高fodmap食品(発酵性の高い糖質)は、腸内でガスを発生させやすく、IBSの症状を悪化させる可能性があります。
原因の複雑性
- これらの要因は、互いに影響し合いながらIBSの発症や悪化に関与しています。
- 例えば、ストレスが腸内細菌叢のバランスを崩し、それが腸の運動機能異常や内臓知覚過敏を引き起こすといったように、複合的に作用することがあります。
- IBSの原因は、まだ完全に解明されているわけではありません。しかし、これらの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
診断
IBSの診断は、国際的な診断基準である「ローマIV基準」に基づいて行われます。この基準では、症状の発症自体は少なくとも6か月前から存在し、直近3か月間は下記基準を満たしている場合にIBSと診断されます。
- 腹痛や腹部不快感が、過去3ヶ月間に平均して月に1日以上繰り返して起こる。
- 以下の2つ以上の項目が当てはまる。
・排便頻度の変化(便秘または下痢)に伴って症状が現れる。
・便の形状の変化に伴って症状が現れる。
診断の流れ
1,問診
症状の種類、程度、期間、排便状況、既往歴、生活習慣、食事、ストレスなどについて詳しくお聞きします。
症状が現れるタイミングや、症状を悪化させる要因なども確認します。
2,身体診察
腹部の聴診や触診などを行い、腹部の異常がないかを確認します。
3,検査
IBSと似た症状を示す他の疾患(大腸がん、炎症性腸疾患など)を除外するために、以下の検査が行われることがあります。
・血液検査:炎症反応や貧血の有無などを確認します。
・便検査:便潜血、便培養などを行い、感染や炎症の有無を確認します。
・大腸内視鏡検査:大腸の粘膜を直接観察し、炎症や潰瘍、ポリープなどの異常がないかを確認します。
・必要に応じて腹部超音波検査やCT検査などを行う場合もあります。
診断のポイント
- IBSは、器質的な異常がないにもかかわらず症状が現れる疾患であるため、他の疾患を除外することが重要です。
- 症状の問診が非常に重要であり、医師に症状を詳しく伝えることが診断の助けになります。
- IBSの診断は、症状と検査結果を総合的に判断して行われます。
主な症状
1,腹痛・腹部不快感
IBSの最も一般的な症状です。
痛みは、鈍痛、差し込むような痛み、痙攣性の痛みなど、様々な形で現れます。
痛みの場所も、下腹部、腹部全体、または特定の場所に限局するなど様々です。
排便によって痛みが軽減することがあります。
2,便通異常
下痢型、便秘型、混合型(下痢と便秘を繰り返す)、分類不能型の4つのタイプに分けられます。
サブタイプ | 特徴 | 症状 |
---|---|---|
IBS-D(下痢型) | BSFSタイプ6・7の便が25%以上、タイプ1・2が25%未満 | ・頻繁な水様便や軟便が見られます。 ・急な便意を感じることが多く、トイレに間に合わないこともあります。 |
IBS-C(便秘型) | BSFSタイプ1・2の便が25%以上、タイプ6・7が25%未満 | ・便が硬く、排便回数が減少します。 ・残便感を感じることがあります。 ・コロコロとしたウサギの糞のような便が特徴です。 |
IBS-M(混合型) | タイプ1・2と6・7の両方が25%以上 | 下痢と便秘が数日から数週間単位で交互に現れます。 |
IBS-U(分類不能型) | 上記に該当しない | 下痢や便秘、普通便など様々な症状 |
4,腹部膨満感・ガス
お腹が張った感じや、ガスが溜まっている感じがします。
ゲップやおならが増えることもあります。
4,その他の症状
吐き気、食欲不振、疲労感、頭痛、不安感、抑うつ
症状の現れ方
- 症状は、ストレス、食事、ホルモンバランスなどによって悪化したり、改善したりすることがあります。
- 症状は、朝や食後に現れやすい傾向があります。
- 症状は、数日から数週間、または数ヶ月続くことがあります。
特に注意すべき症状
以下の症状が現れた場合は、すぐに医師の診察を受けてください。
- 血便
- 体重減少
- 発熱
- 夜間の腹痛
- 激しい腹痛
これらの症状は、IBS以外の病気の可能性も考えられます。早期の診断と治療が重要です。
治療
IBSの治療は、症状の緩和と生活の質の向上を目的として、患者さま一人ひとりの症状や生活スタイルに合わせて行われます。
食事療法
症状を引き起こしやすい食品を避ける
脂肪分の多い食品、カフェイン、アルコール、香辛料などは、腸を刺激しやすく、症状を悪化させる可能性があります。
特定の食品(乳製品、小麦など)に過敏な場合は、それらを避けるようにします。
食物繊維の摂取量を調整する
食物繊維は、便の量を増やし、腸の動きを調整する働きがあります。
便秘型の場合は、水溶性食物繊維(海藻、果物など)を積極的に摂取し、下痢型の場合は、不溶性食物繊維(野菜、穀物など)を控えるようにします。
低fodmap食を試す
fodmap発酵性の高い糖質)は、腸内でガスを発生させやすく、IBSの症状を悪化させる可能性があります。
高fodmap食品には、小麦、ライ麦、大麦、乳製品、果物、野菜などがあります症状の程度に応じて、これらの食品を段階的に制限します。
低fodmap食品には、肉、魚、卵、米、じゃがいも、グルテンフリーのパンなどがあります。これらの食品をメインに食事を組み立てるようにします。
低fodmap食は、fodmapを制限する食事療法で、症状の改善が期待できます。
規則正しい食生活を心がける
食事の時間を規則正しくすることで、腸の動きを整えます。
1回の食事量を減らし、回数を増やすことも有効です。
薬物療法
整腸剤
腸内細菌のバランスを整え、腸の機能を改善します。
止痢薬
下痢の症状を緩和します。
緩下剤
便秘の症状を緩和します。
抗不安薬、抗うつ薬
ストレスや不安が強い場合に、症状の改善を助けます。
消化管運動機能調整薬
腸の運動機能を調整し、腹痛や便通異常を改善します。
心理療法
・認知行動療法
ストレスや不安に対する考え方や行動パターンを変えることで、症状を改善します。
・リラクゼーション法
深呼吸、瞑想、ヨガなどを行い、心身のリラックスを促します。
生活習慣の改善
十分な睡眠
睡眠不足は自律神経の乱れにつながり、IBSの症状を悪化させる可能性があります。規則正しい睡眠習慣を心がけましょう
適度な運動
適度な運動は腸の働きを活発にし、ストレス解消にもつながります。 ウォーキングやストレッチなど、軽い運動から始めましょう。
ストレスの軽減
ストレスはIBSの症状を悪化させる要因となります。
リラクゼーション法(深呼吸、瞑想、ヨガなど)、趣味や運動などでストレスを解消しましょう。
その他
漢方薬
体質や症状に合わせて、漢方薬が用いられることがあります。
鍼灸治療
自律神経のバランスを整え、症状の緩和に役立つことがあります。
治療の注意点
- IBSの治療は、根気強く続けることが大切です。
- 症状が改善しない場合や悪化する場合は、医師に相談してください。
- 自己判断で薬の使用や食事制限をすることは避けましょう。
最後に
IBSは決して珍しい病気ではありません。
- 多くの人がIBSに悩んでおり、あなただけではありません。
- 恥ずかしいと思ったり、一人で抱え込んだりせずに、当院に相談してください。
適切な治療と生活習慣の改善で、症状をコントロールできます。
- 体質と思って症状を我慢したり、諦めたりしている方がたくさんおられます。まずは、この症状はIBSかも?と疑う事が大切です。
- IBSの治療法は確立されており、多くの患者さまが症状の改善を実感しています。
- 医師と協力して、あなたに合った治療法を見つけましょう。
- 食事、運動、ストレス管理など、生活習慣の改善も重要です。当院では栄養指導も行っています。ぜひ、ご相談ください。
質の高い生活を送ることができます。
- IBSの症状が改善すれば、これまで制限されていた活動も楽しめるようになります。
- 旅行や食事など、諦めていたことも再び楽しめるようになるでしょう。
- 前向きな気持ちで治療に取り組み、充実した日々を送りましょう。
大切なこと
- IBSは、長期的な付き合いになる可能性があります。焦らず、根気強く治療に取り組みましょう。
- 症状や治療について不安なことがあれば、いつでも当院に相談してください。
- あなた自身の心と体の声に耳を傾け、無理のない範囲で生活習慣を改善していきましょう。
ご自身の症状について気になることがあれば、遠慮なく当院にご相談ください。
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