大腸がん
大腸がんは、大腸(結腸と直腸)に発生するがんで、日本人のがんの中で罹患率が最も高いがんです。早期発見・早期治療が非常に重要ながんですので、一緒に大腸がんについて詳しく見ていきましょう。
大腸がんとは?
大腸の粘膜に発生する悪性腫瘍です。初期の段階では、ほとんど自覚症状がないことが多いです。進行すると、血便、便通異常(便秘や下痢)、腹痛、体重減少などの症状が現れることがあります。
大腸がんの特徴
大腸がんは主に大腸の粘膜から発生します。多くの場合、線種と呼ばれる良性のポリープが関係していますが、平坦型や陥没型のがんも存在します。
1. 発生部位
直腸とS上結腸が全体の約70%を占める。
直腸は特にがんが発生しやすい部位(全大腸がんの約50%)
2. 分類
肉眼的分類:0型(表在型)から5型(分類不能)まで
分類 | 分類名 | 主な形態・特徴 |
---|---|---|
0型 | 表在型 | 粘膜表面にとどまる。隆起型・平坦型・陥凹型に分類される。早期癌で多く見られる。 |
1型 | 隆起型(腫瘍型) | 明らかなポリープ状に隆起する。茎付き(有茎)または無茎の腫瘤。 |
2型 | 潰瘍限局型 | 潰瘍があるが、周囲の粘膜とは境界が明瞭で局所的。腫瘍中心部に潰瘍形成あり。 |
3型 | 潰瘍浸潤型 | 潰瘍が不整で、周囲への浸潤性増殖が目立つ。境界不明瞭。進行癌に多い。 |
4型 | びまん浸潤型 | 腫瘤や潰瘍を形成せず、腸壁が硬化・肥厚。スキルス様進行。肉眼的に判断困難なことも。 |
5型 | 分類不能 | 上記いずれにも分類できないもの。特殊例や混合型。 |
深達度による分類:早期がんと進行がん
深達度レベル | 病理学的表記 | 浸潤範囲 |
---|---|---|
M | pTis | 粘膜内(上皮内 or 粘膜固有層) |
SM | pT1 | 粘膜下層 |
MP | pT2 | 固有筋層 |
SS(S) | pT3 | 漿膜下組織(漿膜直下) |
SE | pT4a | 漿膜貫通 |
SI | pT4b | 隣接臓器へ浸潤 |
分類 | 定義 | 病変の浸潤範囲 | 特徴・臨床的意義 | 主な治療法 |
---|---|---|---|---|
早期がん | 癌の浸潤が粘膜下層(SM)までにとどまる | 粘膜(M)または粘膜下層(SM)まで | リンパ節転移リスクが低い。内視鏡的切除が適応となることが多い。 | 内視鏡的切除(EMR・ESD)、外科手術(選択的) |
進行がん | 癌が固有筋層(MP)以深に浸潤している | 固有筋層(MP)〜漿膜(S)または漿膜外へ | リンパ節・遠隔転移リスクが高く、外科的切除が基本となる。 | 外科的切除+化学療法など併用 |
病理組織学的分類:主に腺癌(80~90%が高~中分化型腺癌)
分類 | 組織型名 | 特徴・臨床的意義 |
---|---|---|
腺癌 | 管状腺癌/乳頭状腺癌など | 最も一般的。全大腸癌の90%以上。分化型腺癌(高・中分化)と未分化型に分類される。 |
粘液癌 | 粘液産生性腺癌 | 細胞の50%以上が粘液。しばしば予後不良。MSI陽性例に多い。若年者にも発生。 |
印環細胞癌 | 印環細胞癌 | 細胞内に粘液を含み核が押しつぶされる。スキルス型進行をとることもある。 |
腺扁平上皮癌 | 腺扁平上皮癌 | 腺癌と扁平上皮癌の混合型。極めて稀で予後不良。 |
神経内分泌癌 | 神経内分泌癌(NEC) | 高悪性度(小細胞型・大細胞型)。早期転移・予後不良。クロモグラニンAなど陽性。 |
その他特殊型 | 腺腫様癌、扁平上皮癌など | 発生頻度が極めて低く、病態や治療指針も確立されていない場合が多い。 |
分化度(Differentiation grade)の分類
分化度分類 | 分類名 | 特徴 |
---|---|---|
高分化型 | well-differentiated | 腺構造がよく保たれている。進行は比較的遅い。予後良好。 |
中分化型 | moderately diff. | 腺構造は部分的に不明瞭。典型的な腺癌の大多数が該当。 |
低分化型 | poorly differentiated | 腺構造が失われ、異型性が強い。浸潤・転移しやすく予後不良。 |
未分化型 | undifferentiated | 癌と特定できない形態。極めて悪性度が高い。 |
分類 | 分類名 | 主な形態・特徴 |
---|---|---|
0型 | 表在型 | ・頻繁な水様便や軟便が見られます。 ・急な便意を感じることが多く、トイレに間に合わないこともあります。 |
1型 | 隆起型(腫瘍型) | ・便が硬く、排便回数が減少します。 ・残便感を感じることがあります。 ・コロコロとしたウサギの糞のような便が特徴です。 |
2型 |
タイプ1・2と6・7の両方が25%以上 | 下痢と便秘が数日から数週間単位で交互に現れます。 |
3型 | 上記に該当しない | 下痢や便秘、普通便など様々な症状 |
4型 |
上記に該当しない | 下痢や便秘、普通便など様々な症状 |
5型 | 上記に該当しない | 下痢や便秘、普通便など様々な症状 |
大腸がんの原因とリスク要因
大腸がんの主な原因は、まだ完全には解明されていませんが、以下のリスク要因が知られています。
- 食生活の欧米化:動物性たんぱく質や脂肪分の過剰摂取、特に赤身肉や加工肉(ハムやソーセージなど)の摂りすぎ、食物
- 繊維の摂取不足。
- 生活習慣:運動不足、肥満、喫煙、過度の飲酒。
- 遺伝的要因:家族歴、家族性大腸線種症やリンチ症候群などの遺伝性疾患。
- 加齢:50歳以上でリスクが高まります。
- 炎症性腸疾患:潰瘍性大腸炎、クローン病
- 大腸ポリープ:特に線種は悪性化する可能性があり、大腸がんのリスク因子となる。
大腸がんの症状
大腸がんは、早期の段階ではほとんど症状が現れないことが多いですが、進行するにつれて様々な症状が現れることがあります。以下に、大腸がんの代表的な症状を詳しく説明します。
1. 排便の変化
- 便秘や下痢の繰り返し:これまでと比べて便通が変化し、便秘と下痢を繰り返すことがあります。
- 便が細くなる: 大腸の内腔が狭くなることで、便が細くなることがあります。
- 残便感: 排便後も便が残っているような感じがすることがあります。
2. 血便・下血
- 便に血が混じる、または便器が血で染まることがあります。
- 痔と間違えやすいですが、自己判断は禁物です。
3. 腹部の症状
- 腹痛:鈍い痛みや、間欠的な痛みを感じることがあります。
- 腹部膨満感:お腹が張ったように感じることがあります。
- 嘔吐:腸閉塞を起こしている場合などにみられます。
4. 全身症状
- 貧血:慢性的な出血により、貧血になることがあります。
- 体重減少:原因不明の体重減少が見られることがあります。
- 倦怠感:全身のだるさを感じることがあります。
5. その他
- お腹にシコリができる。
注意点
- これらの症状は、大腸がんだけでなく、他の消化器系の病気でも見られることがあります。
- 症状だけで大腸がんかどうかを判断することはできません。
- 気になる症状がある場合は、早めに当院を受診し、医師の診察を受けるようにしてください。
大腸がんの検査
1. 便潜血検査
- 便潜血検査は大腸がん検診の簡易的な方法です。
- 2日分の便を採取して検査を行います。陽性の場合は大腸内視鏡検査が勧められています。
- 40歳以上の男女を対象に、毎年受けることを推奨されています。
- 簡易的な検査である為、早期がんでも必ず陽性になるわけではありません。従って当院では定期的な大腸内視鏡検査も勧めています。
2. 大腸内視鏡検査(大腸カメラ)
- 肛門から内視鏡を挿入し、大腸内部を直接観察します。
- 粘膜表面の微細な病変まで発見でき、必要に応じて組織を採取できます。
- ポリープやがんを切除することも可能です。
- 大腸がんの確定診断に最も有効な検査方法です。
- 40歳以上の男女を対象に推奨されています。一度だけではなく定期的な検査を受けましょう。
3. 大腸CT検査
- 大腸内視鏡検査の代替として、身体への負担が少ない検査方法です。
- X線を使って大腸の断層画像を撮影します。
- 大腸の形状や病変の有無を確認できます。
- 大腸内視鏡検査に比べて侵襲性が低いですが、ポリープやがんが見つかった場合は大腸内視鏡検査が必要です。
4. PET-CT検査
- がん細胞の代謝活性を利用した全身検査です。
- 1㎝程度の小さながんでも発見できる可能性があります。
- 大腸がんだけでなく、全身のがんについても調べられます。
- 被爆リスクもあり、一般的には内視鏡にて大腸がんの診断がついた方が、がんの広がりを精査するために行われます。
5. 注腸X線検査
- 肛門からバリウムと空気を注入し、X線撮影を行います。
- 大腸の形状や異常を観察します。
- 大腸内視鏡検査に比べて精度は劣ります。ポリープやがんが見つかった場合は大腸内視鏡検査が必要です。
- 被爆リスクがあります
6. 腫瘍マーカー検査
-
血液中の特定の物質(CEA、CA19-9など)を測定する検査です。
-
大腸がんの診断の補助や、治療効果の判定、治療後の再発の指標に用いられます。
-
腫瘍マーカーのみで、大腸癌の確定診断はできません。がんが進行した時に上昇するため、早期がんの発見には向いていません。
大腸がんの進行度
TNM分類とは、大腸癌をはじめとする悪性腫瘍において、がんの進行度(病期)を客観的に評価するための国際的な分類法です。
これらを組み合わせてステージ(病期)I~IVを決定します。
TNM分類
【T分類:原発腫瘍の深達度】
分類 | 定義 | 特徴 |
---|---|---|
Tis | 上皮内癌(粘膜内癌) | 粘膜上皮または粘膜固有層にとどまる早期癌 |
T1 | 粘膜下層(SM)に浸潤 | 内視鏡的切除や局所切除の対象になり得る |
T2 | 固有筋層(MP)まで浸潤 | 腸壁の中間まで浸潤 |
T3 | 漿膜下組織(SS)に達するが、漿膜は貫通しない | 漿膜下まで進行 |
T4a | 漿膜(S)を貫通 | 腸管の外に出ている |
T4b | 他臓器または構造物に直接浸潤 | 膀胱・小腸・腹壁などに直接浸潤している |
N分類:局所リンパ節転移
分類 | 定義 | 特徴 |
---|---|---|
M0 | 遠隔転移なし | |
M1a | 1臓器(肝・肺など)への限局した転移 | 肝転移のみ、肺転移のみなど |
M1b | 2臓器以上または複数部位への転移 | 肝+肺、腹膜播種など複数の遠隔転移がある場合 |
M1c | 腹膜転移 ± 他臓器転移 | 腹膜播種がある場合(悪性度高) |
M分類:遠隔転移
分類 | 定義 | 特徴 |
---|---|---|
M0 | 遠隔転移なし | |
M1a | 1臓器(肝・肺など)への限局した転移 | 肝転移のみ、肺転移のみなど |
M1b | 2臓器以上または複数部位への転移 | 肝+肺、腹膜播種など複数の遠隔転移がある場合 |
M1c | 腹膜転移 ± 他臓器転移 | 腹膜播種がある場合(悪性度高) |
進行度(ステージ)
ステージ | 定義(T・N・M分類) | 深達度・転移 | 主な治療法(標準治療) |
---|---|---|---|
Stage 0 | Tis N0 M0(上皮内癌) | 粘膜内に限局 | 内視鏡的切除(EMR/ESD)※転移リスクほぼなし |
Stage I | T1-2 N0 M0 | 粘膜下層〜筋層まで浸潤、転移なし | 外科的切除(結腸切除+リンパ節郭清) 場合により局所切除も検討 |
Stage II | T3-4 N0 M0 | 漿膜・周囲組織まで浸潤、転移なし | 外科的切除+術後補助化学療法 (IIb/IIcで考慮、リスク因子による) |
Stage III | 任意のT、N1-2(リンパ節転移あり)、M0 | リンパ節転移あり、遠隔転移なし | 外科的切除+術後補助化学療法 (CapeOX/FOLFOXなど) 病期・全身状態に応じ調整 |
Stage IV | 任意のT/N、M1(遠隔転移あり) | 肝・肺・腹膜など遠隔転移あり | 化学療法+手術(可能であれば) 切除不能例は全身化学療法・緩和医療が主体 |
大腸がんの治療
大腸がんの主な治療法は以下の通りです。これらの治療を単独または組み合わせて行われます。治療法の選択は、がんのステージ、患者さまの状態、希望などを総合的に考慮して、医師と患者さまが相談して決定します。
1. 内視鏡治療
-
早期の大腸がん(ステージ0、Iの一部)に対して行われます。
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内視鏡を使ってポリープやがんを切除します。
-
開腹手術に比べて体への負担が少ないのが特徴です。
2. 手術療法
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進行した大腸がん(ステージIの一部~III)に対して行われます。
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がんのある部分と、周囲のリンパ節を切除します。
-
腹腔鏡手術やロボット支援手術など、体への負担が少ない手術法も普及しています。
3. 化学療法(抗がん剤治療)
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手術後の再発予防や、進行・再発大腸がんの治療として行われます。
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抗がん剤を点滴や内服で投与し、がん細胞の増殖を抑えます。
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副作用を軽減するための支持療法も進歩しています。
4. 放射線療法
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直腸がんに対して、手術前後の補助療法や、進行がんの症状緩和のために行われることがあります。
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放射線を照射して、がん細胞を破壊します。
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化学療法と併用することもあります。
5. 薬物療法
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分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬など、新しい薬物療法が開発されています。
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がんの進行に関わる特定の分子を標的にし、免疫の力を利用することでがん細胞を攻撃します。
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患者さまによっては、高い治療効果が期待できます。
6. 緩和ケア
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進行がんや再発がんの場合、痛みやその他の症状を和らげ、生活の質(QOL)を維持するための緩和ケアが行われます。
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緩和ケアは、がんの治療と並行して行われることもあります。
治療後の経過観察
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治療後は、定期的な検査(血液検査、腫瘍マーカー検査、CT検査、大腸内視鏡検査など)を行い、再発や転移がないかを確認します。
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定期的な検査で、早期に再発や転移を発見し、適切な治療を行うことが大切です。
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大腸がんの治療は、日々進歩しています。最新の治療法や臨床試験の情報については、医師に相談してください。
大腸がんの予防
大腸がんの予防には生活習慣の改善と定期的な健診が重要です。
1. バランスの取れた食生活を心がけましょう。
・食物繊維を多く含む野菜やきのこ類を積極的に摂取する。
・カルシウムの摂取量を増やすため、牛乳・乳製品を十分に摂る。
・加工肉(ハム、ソーセージ、ベーコンなど)や赤肉(牛、豚、羊など)の過剰摂取を避ける。
2. 高エネルギー食品の摂取を控え、肥満を予防しましょう。
3. 運動習慣の確立
・ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を定期的に行う。
・エレベーターやエスカレーターの代わりに階段を使用する。
4. 飲酒と喫煙の制限
・節酒を心がけましょう。厚生労働省の推奨する適度な飲酒量は1日平均純アルコールで約20g程度です。
・禁煙を目指しましょう。喫煙は大腸がんのリスクを1.4倍高めます。
5. 定期的な健診
・問診
・便潜血検査:健診結果が『要精密検査』となった場合は、必ず精密検査を受けましょう。
・40歳以上の方は、定期的な大腸がん検診を受けることが推奨されます。
6. その他の注意点
・ストレス管理を行い、精神的な健康も維持しましょう。
・家族歴がある場合、より注意深く予防と健診に取り組みましょう。
以上の予防法を日常生活に取り入れることで、大腸がんのリスクを低減できます。ただし、これらの方法で完全に予防できるわけではないため、定期的な健診と早期発見・早期治療が重要です。気になる症状がある場合は、健診を待たずに当院へ受診してください。
早期発見・早期治療の重要性
大腸がんの早期発見・早期治療により、適切な治療を行えば完治する可能性が高い病気です。40歳を過ぎたら定期的な検診を受け、積極的に大腸内視鏡検査を検討することをお勧めします。早期発見により、治療が比較的容易で、予後も良好となり生存率を大きく向上させます。自覚症状がなくても定期的な検査を受けることが、大腸がんの予防と早期発見につながります。
ご自身の体調や症状について気になることがあれば、どんなことでもお気軽に当院へご相談ください。
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~ 医療法人社団 俊爽会 理事長 小林俊一 監修 ~